⭐️「今のままではダメ」と言われ続けた子どもたちは
発達障害のある子どもたちと長く関わってきて、強く感じることがあります。
それは――
「今のままではだめ」「もっと改善しないといけない」というメッセージが、
子どもたちの心にどれほど深い影を落としているかということです。
⭐️良かれと思う言葉が、子どもを傷つける
親は誰もが、わが子の将来を心配しています。
「この子の将来のために」「社会で困らないように」と、
何とか改善しよう、もっと成長させようと努力します。
けれど、「改善しなければならない」という思いが強くなりすぎると、
子どもには違うメッセージとして届いてしまいます。
「ぼくは、今のままではだめなんだ」
「わたしは、このままでは受け入れてもらえないんだ」
言葉にしなくても、親のまなざしや態度から、子どもは敏感にそれを感じ取ります。
そうやって、知らず知らずのうちに、
「今のあなたでは価値がない」という否定の感覚を
子どもに与え続けてしまうのです。
⭐️資本主義社会が生む、競争と比較の圧力
でも、親がそう考えてしまうのも当然かもしれません。
私たちは、資本主義社会という「競争」や「比較」を前提とした世界で生きているからです。
この社会では、「人よりできること」「人より上であること」が当たり前のように評価されます。
誰よりも早く、正しく、効率的に結果を出した人が、偉いとされます。
子どもの頃から、テストで点数をつけられ、順位がつけられる。
そしてその順位が「価値」だと、無意識のうちに教え込まれています。
さらに言えば、学歴や学校名が賃金格差や就職先を決定し、
その後の人生を左右するとまで言われる社会です。
だからこそ親は焦り、子どもに「もっと」「このままじゃだめ」と
言い続けてしまうのです。
⭐️心配だからこそ、口出ししてしまう親心
親が口を出してしまうのは、「心配」だからこそ。
この子の将来が不安で、失敗させたくなくて、
つい注意しすぎたり、指摘したり、先回りしてしまうのです。
「このままじゃ社会に出たときに苦労するから」
「もっと早く気づいてほしい」
その親心は本物で、深い愛情のあらわれです。
しかし、子どもにとっては、「否定されている」「今の自分はダメなんだ」と受け取ってしまうのです。
そのメッセージが何年も続けば、
子どもは自信をなくし、自分を責め、心を閉ざしてしまうかもしれません。
⭐️ありのままを認めるという土台
大切なのは、「ありのままのその子」をまず受け入れることです。
変化や改善は、否定からは始まりません。
むしろ、安心感から生まれます。
「あなたはそのままで大丈夫だよ」と言われる安心があるからこそ、
子どもは自分の足で前に進めるのです。
ありのままを認めることと、変わることは矛盾しません。
むしろその両方が揃ったとき、子どもの力は自然に伸びていきます。
⭐️親もまた、「比べられる社会」で苦しんでいる
親御さん自身もまた、同じ社会のプレッシャーの中で苦しんでいます。
- 他の子と比べてしまう
- 学校や先生からの指摘に傷つく
- 他の親からの目が怖い
- 将来が不安で眠れない
だからこそ、親は不安の中で焦り、「もっと」「早く」と言ってしまう。
親もまた、社会が作り出した「競争と比較」の中で追い詰められているのです。
⭐️支援者としてできること
私たち支援者の役割は、子どもや親を「変える」ことではありません。
支援者にできることは、子どもと親が安心していられる環境を支えることです。
まずは「そのままで大丈夫」と伝えること。
そして「よく頑張ってますよ」と親の心にも寄り添うことです。
⭐️「足るを知る」――幸せの本質
本当の幸せは、「何かを得た」「誰かに勝った」ということではありません。
私たちが『ロード』の歌詞に胸を打たれるのも、
「何でもないようなことが 幸せだったと思う」
という真理を、誰もがどこかで知っているからではないでしょうか。
大切なことは、
朝、目が覚めて「おはよう」と言えること、
誰かがいてくれること、
それだけで実は十分だと気づくことです。
競争や比較を超えて、私たちが今、目の前にある日常を見つめられたとき、
子どもも親も初めて心からの安心感を得られるのだと思います。
⭐️おわりに
「今のままではだめ」という社会のメッセージは、
知らないうちに子どもも親も苦しめています。
でも本当に必要なのは、「足るを知る」という視点。
変えることよりも、「いま、目の前にいるその子を、そのまま認めること」なのです。
それができたとき、子どもは自分の力で一歩を踏み出し、
親もまた、ありのままのわが子を見つめられるようになるのだと思います。
それが、支援の原点であり、私が日々、子どもや親と関わる中で
大切にしていきたいことです。
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