⭐️原因と結果を逆に見ると見えてくる、人の行動の本当の理由              行動分析学(ABA)パート2

行動を“弱める”方法 — 嫌子出現の弱化と好子消失の弱化(ABA入門)


応用行動分析(ABA)では、望ましい行動を**増やす(強化)だけでなく、望ましくない行動を減らす(弱化)**ための仕組みも整理されています。今回はその中から 「嫌子出現の弱化」「好子消失の弱化」 を、具体例とともに解説します。

まず大切な点:行動を減らす手法は副作用(感情悪化・逃避・攻撃性など)や倫理的問題を伴いやすいので、どうしても必要なら専門家と相談のうえ慎重に行ってください。


⭐️ 用語の整理(簡潔)

  • 嫌子出現の弱化:その行動の後に嫌な刺激(嫌子)を提示することで、その行動が将来減るようにすること。行動分析では「正の罰(positive punishment)」に相当する場合が多い。
    例:子どもが髪を引っ張ったら短時間注意して嫌な経験を与える → 引っ張る行動が減る。
  • 好子消失の弱化:その行動の後にこれまで与えられていた好刺激(好子)を取り上げる/与えないことで行動を減らすこと。行動分析では「負の罰(negative punishment)」や「消去(extinction)」に相当する。
    例:おもちゃを取り上げる(タイムアウト)や、泣いて注目を得ていた子に注目を与えないことで泣きが減る。

⭐️正確な区別(重要)

  • 正の罰(嫌子出現):行動の直後に嫌なことを加える(例:叱責、軽い不快刺激)。行動は減るが情緒的副作用が出やすい。
  • 負の罰(好子消失):行動の直後に好子を奪う(例:おもちゃを没収、時間的な特権を取り上げる)。
  • 消去(Extinction):その行動に対して一切の強化(注目や報酬)を与えないことで徐々に消える。消去バースト(一時的増悪)が起きることがある。
    (※運用上は重なって見えることがあるため、目的と方法を明確にして使います)

⭐️ 具体例一覧(家庭・園での事例)

手法典型的な介入例(状況)期待される変化注意点・副作用
嫌子出現の弱化(正の罰)行動後に短い不快刺激や不快な結果を与える子が他児を叩く → すぐに固く注意し、その場から短時間離す(短い不快体験)叩く行為が減る怒り・恐怖・関係悪化、逃避、倫理的問題。乱用禁止
好子消失の弱化(負の罰)行動後に好子(おもちゃ・遊び時間・注目)を取り上げる子がおもちゃを独占して暴れる → その場でおもちゃを一定時間取り上げる(タイムアウト)暴れ行為が減る取り上げ方が理不尽だと不信感。代替行動の提示が必要
消去(extinction)これまで与えていた強化を完全にやめる泣くと抱っこされていた → 泣いても抱っこしない(安全配慮は必須)泣き行動が徐々に減る(消去バーストに注意)一時的に行動が増える(消去バースト)、感情悪化、家庭での持続困難
結合:負の強化+代替強化好子除去と同時に代替行動を強化騒いで注意を得る子 → 注意は与えない(消去)+静かにしていたら注目を与える(差異強化)騒ぎが減り、静かな行動が増える一貫性が必要。大人の根気と計画がいる

⭐️実施前に必ず考えること(倫理・安全)

  1. 安全性の確保:嫌子を与える場合、身体的・心理的安全を最優先に。暴力や屈辱は絶対NG。
  2. 代替行動の提示:弱化と同時に、望ましい代替行動を明確に教え・強化する(DRA/差異強化)。
  3. 一貫性:家庭と園で方針が異なると効果が出ない・混乱を招く。関係者で合意を。
  4. 記録と評価:事前にベースライン(頻度)を取り、介入でどう変わるかを記録する。効果がない場合は中止・見直し。
  5. 専門家の関与:行動が強度・頻度共に高い場合や副作用が出た場合は心理士に相談。法的にも配慮を。

⭐️実践ステップ(現場で使いやすい順序)

  1. ターゲット行動を定義する(具体的・観察可能に)
  2. 強化の機能を評価する(その行動の直後、何が起きているか?好子か嫌子か)
  3. 代替行動を設定する(何を増やしたいか)
  4. 介入計画を立てる(好子消失か嫌子出現か、または消去+差異強化)
  5. 周囲で合意する(家庭・園で一貫した運用)
  6. 実施→記録→評価(頻度・強度・副作用をチェック)
  7. 効果が出たらフェードアウト(段階的に介入を弱め、持続するために代替強化を絞る)

⭐️具体的な家庭でのシナリオ(実践例)

A:泣いてお菓子をねだる子ども(好子消失の弱化+差異強化)

  • 事前:泣けばお菓子を与えてしまっていた → 泣く行動が習慣化
  • 介入:
    • お菓子を与える「条件」を明確にする(例:食後のみ)
    • 泣いても即座にお菓子を与えない(消去)
    • 「静かにできたらシール」を与える(代替行動の強化)
  • 結果:最初は泣きが増える(消去バースト)が、継続すると泣きは減り、静かに待つ行動が増える。
  • 注意:消去バーストの期間は親の忍耐が必要。安全と安心を確保すること。

B:友達を叩く(嫌子出現の弱化+代替行動強化)

  • 事前:叩くと注目される、または相手が離れる → 叩く行動が維持
  • 介入:
    • 叩いたら即座に短時間(数秒〜数分)の活動停止(嫌子提示)+「叩かない言い方」(握手/言葉で伝える)を教え、実行したら称賛(好子)
  • 結果:叩く行動が減り、触れ合いの適切な表現が増える可能性あり。
  • 注意:嫌子提示は過度に厳しくしない。代替行動の強化が必須。

⭐️よくある誤解とQ&A

Q:罰(嫌子出現)を使えばすぐ治る?
A:短期的には減るが副作用(恐怖・反発・隠れた問題行動)を招くことがある。代替強化と組み合わせないと再発しやすい。

Q:消去だけでいい?
A:消去は有効だが「消去バースト」で一時的に悪化することがある。代替行動を同時に強化するのが現実的で安全。

Q:親が感情的に罰しても効果は?
A:感情的な扱いは信頼を壊し、望ましくない副作用を招く。計画的・一貫的であることが重要。


⭐️ 最後に(まとめ)

  • 嫌子出現の弱化(正の罰)好子消失の弱化(負の罰/消去) は、行動を減らすための有効な手段ですが、リスクと副作用が大きいため慎重に使う必要があります。
  • まずは「強化(増やす)」で代替行動を育て、それでも手がかりがない場合に、専門家の指導のもとで弱化手法を計画的に導入するのが安全です。
  • どの手法を使うにしても、安全・一貫性・記録・代替行動の強化が成功の鍵です。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次