視力だけじゃない、
「見る力」を知ろう
「視力は問題ない」と言われたのに、読み書きや運動で困っている。そんなお子さんの姿に心当たりはありませんか。視力検査の「1.0」だけでは分からない、見たものを使いこなす力についてまとめました。
見る力の基本
おうちの方に知っていただきたいことを、できるだけやさしくまとめています。
視力と視機能のちがい
「視力」と「視機能」は似た言葉ですが、意味がちがいます。
- 何をはかる?
- ピントの合う力(どれだけくっきり見えるか)
- 検査のしかた
- 遠くの一点を見て数値にする(1.0など)
- わかること
- 「見えているかどうか」
- 何をはかる?
- 見た情報を取り込み、脳で処理し、使いこなす力
- 検査のしかた
- 目の動き・両目の使い方・距離感など、いくつもの力を観察
- わかること
- 「見た情報をどう使えているか」
視力が1.0あっても、文字を目で追う途中で行を飛ばしたり、黒板からノートに目を移すたびに書く場所を見失ったりすることがあります。これは「見えていない」のではなく、「見る力をうまく使いこなせていない」状態です。視力検査だけでは、この課題は見つかりません。
視機能をつくる3つの力
目を速く正確に動かし、見たいものに視線を合わせる力。
視線を一点から別の点へ素早く移す。読書の行替え、黒板とノートの見比べに使う。
動くものをなめらかに追い続ける。ボールを追う、線をなぞるときに使う。
弱いと:行や文字の読み飛ばし、書き写しで場所を見失う、ボールを見失う
左右の目を同時に、ずれなく使う力。立体感や距離感のもとになります。
弱いと:ボールをうまく捕れない、階段でつまずきやすい、片目をつぶって見る
見たものの形・位置・向きを脳で正しくとらえる力。
弱いと:鏡文字、マスに字が収まらない、図形を写すのが苦手
3つの力は互いに関わり合って働いています。どれか一つが弱いだけでも、学習・運動・生活のいろいろな場面に影響が出ることがあります。
視機能が弱いと起きやすいこと
- 音読で行や文字を飛ばす、読んでいた場所を見失う
- 板書を写すのに時間がかかる、写し間違いが多い
- マス目や行からはみ出して書く
- ボールをうまく捕れない、よけられない
- 縄跳びやボール運動が苦手
- 姿勢が崩れやすい、机に顔を近づけて作業する
- 物や人によくぶつかる
- 階段や段差でつまずきやすい
- コップに飲み物をうまく注げない
これらの様子は、やる気や集中力の問題と誤解されがちです。実際には、見る力の土台がまだ育っていないために、がんばっているのにうまくいかない、ということが少なくありません。
ご家庭でできるビジョントレーニング
特別な道具がなくても、遊びの中で「見る力」を育てることができます。
風船やお手玉を投げてもらい、目で追って両手でキャッチします。
新聞や広告から、決めた文字(例:「あ」)だけを丸で囲んでいきます。
簡単な図形やブロックの形を見て、同じ形を紙に描いたり積み木で作ったりします。
大人が目の前で指をゆっくり左右・上下に動かし、顔は動かさず目だけで追ってもらいます。
市販の迷路やドット・トゥ・ドットに取り組み、線を目で追いながら手を動かします。
左右に離した2本のペン先(または壁の2枚のカード)を、合図に合わせて目だけで交互に見ます。
毎日5〜10分、遊び感覚で。うまくできなくても叱らず、「できた!」を一緒に喜ぶ雰囲気で取り組んでみてください。
気になるサインがあれば、ご相談ください
- 本を読むとすぐに疲れる、嫌がる
- 書き写しや音読に極端に時間がかかる
- よく物や人にぶつかる
- 片目をつぶったり、極端に顔を傾けたりして見る
見る力の課題は外から分かりにくく、本人も困りごとをうまく説明できないことがよくあります。保育所等訪問支援の訪問時や、相談支援の面談の際にお気軽にお話しください。必要に応じて、眼科(視能訓練士のいる医療機関)などの専門機関もご案内します。
専門編:視機能をくわしく
支援者の方や、より深く知りたい保護者の方向けの内容です。
視覚情報処理の3段階
ビジョントレーニングの分野では、「見る」という行為を次の3段階で整理します。どこでつまずいているかによって、困りごとの現れ方も支援の方向も変わります。
眼球運動・両眼視・調節で、必要な情報を正確に目から取り込む
視覚認知。形・大きさ・位置・向き・意味を脳で理解する
理解した情報をもとに手や体を動かす(書く・捕る・よける)
脳の中の2つの視覚経路
目から入った情報は、後頭葉の一次視覚野に届いたあと、大きく2つの経路に分かれて処理されます。
側頭葉へ向かう。形・色・文字・顔など「それが何か」を認識し、文字の読み取りや図形の弁別に関わる。
頭頂葉へ向かう。位置・動き・空間関係を処理し、手や体の動きにつなげる。運筆やボール運動に関わる。
背側経路は発達上の影響を受けやすいとする研究があり、発達障害のあるお子さんの視空間面・協調運動面のつまずきとの関連が議論されています。
入力機能の詳細
入力機能は、情報を「正確に」「速く」「疲れずに」取り込むための土台です。
| 機能 | 内容 | 主に使う場面 | 弱いときのサイン |
|---|---|---|---|
| 固視 | 一点に視線を安定して保つ | 先生の顔や手元を見続ける | 視線がふらつく、すぐ目移りする |
| 追従性眼球運動 (パシュート) | 動く対象をなめらかに追い続ける | ボールを目で追う、線をなぞる | 頭ごと動かして追う、途中で見失う |
| 跳躍性眼球運動 (サッカード) | 視線を一点から別の点へ素早く正確に移す | 読書(1行の中で何度も起こる)、行替え、板書の見比べ | 行や文字の読み飛ばし、同じ行の読み直し |
| 輻輳・開散 | 近くを見るとき両目を内側へ寄せ、遠くを見るとき戻す | 手元の読み書き、黒板とノートの往復 | 近くを見ると疲れる、文字がだぶる・ぼやける |
| 調節 | 水晶体の厚みを変えてピントを合わせる | 近見作業、黒板とノートの見比べ | 近くの文字がかすむ、頭痛・眼精疲労 |
| 両眼視 | 左右の像を一つにまとめる。同時視→融像→立体視の3段階 | 距離感・奥行きの把握、ボール運動、階段 | 距離感がつかめない、片目で見る |
| 周辺視 | 視野の周辺で動きや位置をとらえる | 集団遊び、人混みの移動、次の行の位置の予測 | 物や人によくぶつかる |
読書中の目は文字をなめらかに追っているのではなく、跳躍性眼球運動と短い固視を繰り返しています。そのため跳躍性眼球運動や輻輳・調節の弱さは、読み書きの困難として現れやすくなります。輻輳・調節の課題は通常の遠見視力検査では見つからず、近くを見る条件での検査が必要です。
視覚認知(情報処理)の詳細
視覚認知は、取り込んだ情報に意味を与える脳の働きです。視知覚検査では主に次の要素に分けて評価します。
| 要素 | 内容 | 学習・生活での例 | 弱いときのサイン |
|---|---|---|---|
| 視覚弁別 | 形・大きさ・色・向きの違いを見分ける | 「ね/れ/わ」「シ/ツ」「b/d」の区別 | 似た文字の読み書き間違い |
| 図地弁別 | 多くの情報の中から必要なもの(図)を背景(地)から取り出す | プリントの中の問題を探す | 探し物が苦手、情報の多いプリントで混乱 |
| 形の恒常性 | 大きさ・向き・書体が変わっても同じ形と分かる | 手書き文字と活字が同じ字だと分かる | 書体が変わると読めない |
| 視覚閉合 | 一部が欠けていても全体を推測する | 一部が隠れた文字や絵を読み取る | 部分にとらわれ全体が分からない |
| 空間関係 | 上下・左右・前後や物同士の位置関係を把握する | 漢字の偏とつくり、筆算の位取り、地図 | 鏡文字、パーツの位置違い、桁ずれ |
| 視覚記憶 | 見たものを一時的に覚えておく | 板書を一度見て書き写す | 一文字ずつしか写せない |
| 視覚的系列記憶 | 見たものの順番を覚えておく | 文字の並び(つづり)、手順の模倣 | 文字の順番の入れ替わり(「たいこ」→「たこい」) |
これらは単独ではなく組み合わさって働きます。たとえば漢字の書き取りには、視覚弁別・空間関係・視覚記憶のすべてが関わります。
出力機能の詳細
見て理解した情報を体の動きに変える力です。入力や情報処理がうまくいっていても、ここがつながらないと「分かっているのにできない」状態になります。
書字、はさみ、ボタン留め、箸、定規での作図など。弱いと、枠からはみ出す、線に沿って切れない、字の大きさが安定しない。
ボールを捕る・蹴る、縄跳び、鬼ごっこでよける、段差をまたぐなど。弱いと、運動への苦手意識やケガの多さにつながる。
出力のつまずきは、発達性協調運動症(DCD)など運動面の特性と重なることもあります。作業療法士(OT)による評価と合わせて見ていくと、原因をより正確にとらえやすくなります。
視機能の評価の方法
まず眼科で目そのものの問題(屈折異常・斜視・弱視・眼疾患)がないかを確認し、そのうえで視覚認知面の検査を行うのが基本の順番です。トレーニングの前に眼科受診をおすすめするのはこのためです。
眼科・視能訓練士による主な検査
| 検査 | 何を調べるか |
|---|---|
| 屈折検査 | 遠視・近視・乱視の有無。子どもは調節力が強く遠視が隠れやすいため、調節麻痺薬を使うことがある |
| 近見視力 | 手元(読み書きの距離)での見え方 |
| 眼位検査 | カバーテストなどで斜視・斜位(目のずれ)を確認 |
| 輻輳近点(NPC) | どこまで近づけても両目を寄せ続けられるか |
| 調節検査 | ピントを合わせる力と、切り替えの速さ |
| 立体視検査 | 両眼視の最も高度な段階である立体視の程度 |
視覚認知・眼球運動の主な検査
- WAVES:日本で開発された、主に学童期向けの視覚関連基礎スキルの評価キット。眼科の検査では判断できない広い範囲のスキルを、8領域・10種類の下位検査で評価します[5]。視覚的注意・視知覚・目と手の協応を評価する検査として、病院の学習障害外来でも使われています[6]。
- DEM(Developmental Eye Movement test):縦並びと横並びの数字を読む速さと誤りを比べ、呼称の速さと跳躍性眼球運動の問題を切り分けます。
- フロスティッグ視知覚発達検査(DTVP):視覚と運動の協応、図形と素地、形の恒常性、空間における位置、空間関係の5領域で視知覚を評価します。
- 行動観察:頭が一緒に動いていないか、追視の様子、姿勢、書字や運動の場面も大切な手がかりです。
支援者として知っておきたいエビデンス
ビジョントレーニングは「何に対して効果が確かめられているか」を区別して伝えることが、保護者の信頼につながります。
効果が確かめられている領域:輻輳不全
近くを見るときに両目を十分に寄せられない輻輳不全には、大規模なランダム化比較試験があります。症状のある9〜14歳の子ども311人を対象にした試験では、医療機関での16週間の輻輳・調節訓練で、輻輳近点がプラセボ群より平均4.2cm多く改善し、融像性輻輳も有意に改善しました[2]。医療機関での訓練(自宅練習との併用)は、自宅でのペンシルプッシュアップのみやコンピュータ訓練より、症状と検査値の改善に効果的だったと報告されています[4]。
慎重に伝えたい領域:学習障害・ディスレクシア
- 同じ試験で、16週間の輻輳・調節訓練を行っても、標準化された読みのテストの成績はプラセボ訓練と差がありませんでした[3]。
- 米国小児科学会・米国眼科学会などの共同声明は、視覚の問題が学習を妨げることはあっても、一次性のディスレクシアや学習障害の原因ではないとしています。目の体操や行動的ビジョンセラピー、色付きレンズが長期的な学習成績を改善する科学的根拠はないとして、学習障害の治療としては推奨していません[1]。
- 「読み書きの困難を治す方法」ではなく、「見る力の土台を整え、見えにくさによる負担を減らす取り組みの一つ」として紹介する。
- 読み書きの困難が強い場合は、言語・音韻面の評価や、ICT・拡大教材・行間の調整などの合理的配慮とあわせて検討する。
- まず眼科で屈折異常・斜視・輻輳や調節の問題を確認し、医療が必要なものを見落とさない。
- 家庭でのトレーニングは、楽しく続けられ、お子さんの自己肯定感を損なわない範囲で。
日本の視機能評価をめぐる現状
日本の学校健診や乳幼児健診で行うのは主に遠くを見る「視力」の検査です。読み書きに関わる近見視力・眼球運動・視覚認知まで含めて、子どもの視機能を総合的に評価する仕組みは制度として整っていません。また、医療の外で発達的な視機能の評価とトレーニングを専門に行う国家資格もありません。
日本の関連資格
| 資格 | 位置づけ | 視機能との関わり |
|---|---|---|
| 視能訓練士 (国家資格) | 1971年の視能訓練士法で定められた医療職 | 医師の指示のもとで、両眼視機能に障害のある人への矯正訓練とその検査、眼科の検査を行う[7]。主な対象は弱視・斜視など眼科の疾患で[8]、眼科医療機関の中で働く |
| 眼鏡作製技能士 (国家検定) | 2022年に新設された眼鏡作製の技能検定 | 眼鏡を作る技能の検定で、視機能の発達評価やトレーニングの資格ではない |
| オプトメトリスト | 日本には存在しない資格 | 日本眼科学会・日本眼科医会などは、日本の国家資格のように誤認させる表現に注意を呼びかけ、名乗って医療行為をすることは違法としている[9] |
アメリカとのちがい
アメリカでは、オプトメトリスト(Doctor of Optometry, OD)が州の免許を持つ眼の専門職として確立しています。学士課程のあと4年間の専門課程を経てODの学位を取得し[10]、その中には両眼視・眼球運動・視覚情報処理の評価と訓練(ビジョンセラピー)を専門にする分野もあります。
そのため、日本でビジョントレーニングを専門的に行っている人には、アメリカのオプトメトリー大学で学んで帰国した人が少なくありません(Pacific University College of Optometryには日本人の卒業生もいます[11])。ただし日本ではその資格で医療行為はできないため、教育・福祉・民間の分野で活動しているのが実情です。
- 視機能の課題が疑われたら、まず眼科(視能訓練士のいる医療機関)で斜視・弱視・屈折異常・輻輳や調節の問題を確認する。ここが医療としての入口です。
- 視覚認知や発達面の評価・トレーニングは、作業療法士・特別支援教育の専門家・海外で学んだ専門家などが担っていますが、統一した資格や基準がありません。経歴や方法、根拠をよく確認して選びましょう。
- 「必ず視力が回復する」「学習障害が治る」などとうたうサービスには注意が必要です。
参考資料
- Joint Statement—Learning Disabilities, Dyslexia, and Vision. Pediatrics 2009;124(2):837-844
- CITT-ART: Treatment of Symptomatic Convergence Insufficiency in Children (Optom Vis Sci)
- CITT-ART: Effect of Vergence/Accommodative Therapy on Reading
- CITT Study Group: Long-term effectiveness of treatments for convergence insufficiency
- 石井・本間「WAVESを活用した大学生の視覚情報処理能力のアセスメント」新潟医療福祉大学
- 帝京大学医学部附属病院「WAVESによる学習障害児等の視覚関連スキルの評価」
- 視能訓練士法(昭和46年法律第64号)
- 東京都保健医療局「視能訓練士」
- 日本眼科学会・日本眼科医会・日本眼鏡技術者協会「オプトメトリスト(検眼士)を名乗り行われている各種行為・眼鏡販売等についての注意喚起」2022
- Oregon Encyclopedia「Pacific University College of Optometry」
- Pacific University「Dr. Shinji Seki ’79 to Receive 8th Massih Prize」
- 奥村智人『教室・家庭でできる「見る力」サポート&トレーニング』中央法規出版 2011


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