「白いごはんしか食べない」「野菜を見ただけで泣く」「口に入れてもすぐ出してしまう」。毎日の食事のたびに悩み、「私の育て方が悪いのかな」と自分を責めている方は少なくありません。
はじめにお伝えしたいのは、偏食の多くは、しつけの問題でも、お子さんのわがままでもないということです。食べることは、私たち大人が思っているよりずっと難しい作業です。お子さんは「食べない」のではなく、「食べられない理由がある」ことがよくあります。
食べることは「味」だけではありません
ひと口食べるあいだに、お子さんの体の中ではたくさんのことが同時に起きています。目で見て、においをかぎ、手やスプーンで口に運び、唇で受け取り、舌で動かし、歯で噛み、まとめて、飲み込む。そのあいだ、体をまっすぐ支え続けています。
このどこか1つでも苦手があると、その食べ物は「食べにくい物」になります。関わっているのは、主に次の感覚と体の働きです。
見た目(視覚)
色、形、混ざり具合。口に入れる前に、まず目で「安全かどうか」を確かめています。
におい(嗅覚)
味の感じ方の多くは、においが作っています。においに敏感だと、食卓に座ること自体がつらくなります。
味(味覚)
苦味や酸味は、もともと体が警戒する味です。子どもは大人より強く感じると言われています。
口の中の触覚
ぬるぬる、ざらざら、つぶつぶ、熱い、冷たい。口の中は、体の中でも特に敏感な場所です。
噛む力の感覚
どのくらいの力で噛むか、食べ物が口のどこにあるかを感じる感覚です。
口と飲み込みの筋肉
唇、舌、あご、ほお、のど。食べ物を噛んで、まとめて、送り込む動きには、練習と筋力が必要です。
姿勢と体幹
体がぐらぐらしていると、あごや舌を細かく動かす余裕がなくなります。
おなかの感覚
「おなかが空いた」「もういっぱい」に気づく感覚です。ここが弱いと、食べる気持ちが起きにくくなります。
これらは別々に働くのではなく、重なります。たとえば、ぬるぬるした食感が苦手で、さらに噛む力も弱いお子さんは、食べられる物が一気に少なくなります。
こんな様子には、こんな背景があります
お子さんがどの場面で食べられなくなるかを見ると、背景の手がかりになります。当てはまるものを探してみてください。
| お子さんの様子 | 考えられる背景 |
|---|---|
| 見ただけで拒否する。盛り付けやメーカーが変わると食べない | 見た目で安全を確かめている。「いつもと同じ」が安心の条件になっている |
| 料理が混ざっていると食べない。別々なら食べる | 何が入っているか分からないと不安。口の中で複数の食感が混ざるのが苦手 |
| 食卓に近づかない。においで「おえっ」となる | においに敏感 |
| 口に入れてから出す。ぬるぬる・つぶつぶを嫌がる | 口の中の触覚が敏感 |
| 肉や葉物を、噛んでいるうちに出す。口にため込む | 噛む・まとめる・送り込む動きがまだ難しい |
| やわらかい物ばかり食べる。あまり噛まずに丸飲みする | 噛む力や、あごの動きが育っている途中 |
| 硬い物、味の濃い物ばかり好む | 口の中の感覚が感じ取りにくく、はっきりした刺激を求めている |
| 食事中に姿勢が崩れる。すぐ立ち歩く | 体を支えることに力を使っていて、食べることに集中できない |
| 食べることに関心が薄い。少し食べるとやめる | 空腹や満腹に気づきにくい |
| 以前は食べていたのに、急に食べなくなった | むせた、吐いた、無理に食べさせられた、などの嫌な経験が残っている |
1人のお子さんに、いくつも当てはまることがあります。また、新しい食べ物を警戒する気持ちは、幼児期に強くなるのが一般的です。これは成長の一部で、多くの場合は少しずつ和らいでいきます。
家庭でできること
背景がいくつもあるということは、入口もいくつもあるということです。どれか1つが楽になるだけで、食べられる物が増えることがあります。
1. まず、姿勢を整える
足の裏が床や台にしっかり着いていますか。足がぶらぶらしていると体が安定せず、噛む・飲み込む動きが難しくなります。足台を置く、背中にクッションを入れるなど、椅子を体に合わせるだけで食べ方が変わるお子さんがいます。
2. 無理に食べさせない
「ひと口だけ」と口に入れることは、短い目で見ると食べたように見えても、食事そのものを怖い時間にしてしまいます。食べなくても、同じ食卓にその食べ物があるだけで、慣れる練習になっています。
3. 小さな段階で近づく
食べるまでには、たくさんの手前の段階があります。見る、同じ皿にのせる、触る、においをかぐ、唇に当てる、なめる、かじって出す。どの段階でも「できたね」と認めてあげてください。出してもよいと分かっていると、試しやすくなります。
4. 食べられる物を土台にする
毎回の食事に、お子さんが食べられる物を必ず1つ入れます。そのうえで、形を変える、味付けを少し変える、似た食感の別の食材にするなど、少しだけ違う物へ広げていきます。
5. 食感と見た目を変えてみる
ぬるぬるが苦手なら焼いてカリッとさせる。噛み切れないなら小さく切る、やわらかく煮る。混ざるのが苦手なら、仕切りのある皿で分けて出す。同じ食材でも、形が変わると食べられることがあります。
6. 食事の前に体を動かす
体をしっかり動かすと、おなかが空き、姿勢も保ちやすくなります。食事の前に外遊びやお手伝いの時間を入れてみてください。だらだら食べやおやつの回数も見直すと、空腹を感じやすくなります。
7. 食事以外で、口と手の経験を増やす
シャボン玉、笛、ストローで吹く遊びは、口のまわりの筋肉を使います。粘土や砂、料理のお手伝いで食材に触ることも、食べる前の大切な経験になります。
保護者の方へ
食べてくれない日が続くと、作る側は本当に疲れます。栄養が足りているか心配になり、つい強い口調になってしまうこともあると思います。それは、お子さんのことを大切に思っているからです。
食べられる物が少なくても、食卓が安心できる場所であれば、食べる力は少しずつ育っていきます。今日食べなかったことより、今日も一緒に座れたことを見てあげてください。
こんなときは、早めに相談してください
- 体重が増えない、または減っている
- 食べられる物がとても少ない、または以前食べていた物が減り続けている
- 肉や野菜など、食品のグループごと食べられない
- よくむせる、飲み込みにくそうにしている
- 食事のたびに吐く、強く嫌がって泣く
- 便秘や腹痛が続いている
体の病気や栄養の不足が関わっていることもあります。まずはかかりつけの小児科に相談し、必要に応じて、発達相談の窓口や専門の機関につないでもらってください。
一般的な発達の知識をまとめたものです。個別の診断や判断については、医療機関・専門機関にご確認ください。
アナスタシア子ども相談室 理学療法士 藤田陽彦


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